メキシコからハネムーンで来たというふたりと、WASABIで知り合った。パリからインド入りしたとのことだけど、ヨーロッパの寒波のためフライトキャンセルで、荷物だけがメキシコに戻ってしまったそうだ(たぶん・・・)。着替えも身の回りのものさえなくして到着したデリー。これから2週間ほどインドをまわる予定だというのに、なんてひどいハプニングからのスタートだろう。
でも、デリーで買ったというインド服はとてもお似合いで、お寿司をおいしそうに食べるふたりからその話を聞くまでは、そんなハプニングなんて想像もつかなかった。ハネムーン記念に、とお店からサービスされた抹茶ケーキには、かわいらしい1本のキャンドルがともされていた。
そのケーキをおすそわけいただき、もぐもぐ食べながら、アクシデント付きのハネムーンはきっと一生こころに残るすてきな思い出に変わるんだろうなあ、と想像してにやにやしてしまった。思い通りに行かない状況で、苦労しつつもふたりでなんとか助け合って困難を乗り越え、僻地を巡る。良かったじゃないか!なんだそのうらやましいハネムーンは!
快適なリゾートの一流ホテルでゆったり過ごす、それも素敵だけど、わたしなら、バックパックかついでけんかしながら歩いたキルギス旅行の思い出を前に、どうも輝きは薄れてしまう。
これって苦労の度合いに比例するのだろうか。日本に戻ると超快適なんだけど、ただ日々が淡々と過ぎて行くような気がする。かといって困難な生活に戻りたいかっていうとそうじゃないし、人間ってやつは(っていうかわたしが)つくづく勝手な生きモンである。
「なにかなくすと新しいものがやってくるよ!」そんなふうに言うことしかできなかったけど、ふたりの特別な旅行が良いものになりますように、こころから祈った。
翌朝、また素敵な出会いがあった。
宿泊先だけ決めて、あとは野となれ山となれ、と日本からやってきたご夫妻と知り合ったのだ。メキシコのふたりのことがあったからなのかもしれないが、その日夫はお二人のジャイプルツアーの手配をし、一日観光ガイドをつとめたのだった。我が家にも立ち寄っていただき、夕食をご一緒させてもらい、たくさんの興味深い話をうかがい、これまた我らの新しい刺激にもなってとても楽しい時間を過ごさせていただいた。どうかどうか事故のない楽しいインド旅行となりますように!
ふと思い出して昔のブログや日記を読み返したりする。くだらんことをつらつら書き綴っていても、やっててよかったと思うのはこんなとき。書き留めておかなければたぶん一生記憶のそこに沈んだままだった些細な出来事こそ、当時の情景や気持ちを一瞬で鮮やかによみがえらせてくれる。
こんなふうにたまに取り出してはうっとり眺めて時間を忘れるような思い出の数で、人生の豊かさはきっと決まる。意気込んで作れるものではないし、いつかふと振り返ったときに静かな光を放っていることに気づくんだ。もしかしたら「今」もそのときなのかもしれない。
だから日々に不感症になるべからず。せっかくインドにいるんだし、来年はもっと意識して過ごしてみようと思う。